中国企業もブランド戦略の時代へ

もうすでにご存知だと思いますが、中国は今やGDPが世界第2位の経済超大国となっています。

当然、多数の企業がひしめきあってエネルギッシュな経済活動を行なっています。

出典:Google

これまで、中国の経済活動といえば、開発よりも豊富な人的資源・天然資源を活かした大量生産に重点を置き、「世界の工場」などと呼ばれていました。

一方で、企業が自らブランドを構築し、国際市場に対してイメージ戦略を打ち出すということがあまりなかったのが現実です。

つまり、中国にはアップルソニーホンダサムスンといった国際的ブランド企業が存在しませんでしたし、ユニクロMUJIのような国際的に認知されたリテールもほとんど出てきませんでした。

しかし、ここに来て大きな変化が現れてきています。

一部の中国企業やスタートアップが、優れたアイデア・性能・デザインのプロダクツあるいはサービスを国際市場に投入することによって、今まで中国企業に欠けていた「ブランド性」を持つに至ってきました。

ここでは、そのうちいくつか紹介していきたいと思います。

DJI(大疆创新科技有限公司)

DJIは深センに本拠地を持つドローンの大手メーカーです(2005年創業)

少し古いもの(2018年9月)になりますが、こちらによると、世界のドローン市場の74%をDJIが占めているそうです!

これだけ極端な寡占市場はかなり珍しい部類と言えるのではないでしょうか?

そして、DJIのドローンは、市場を独占しているのみならず、性能・デザイン・使いやすさとも評価が高く、世界中のファンから愛用されています。

筆者も操作したことがありますが、非常に使いやすく、製品も細部までこだわりぬかれていると感じました。価格は決して安い部類ではないのですが、製品としての完成度が高く所有欲をくすぐられます。

また、製品の作り込みについては、使いやすさとデザインの融合を第一とするアップルの製品と近い思想を感じます。

実際、製品開発においては、多くのリソースを割くとともに、徹底的な秘匿を貫いているという点もアップルと共通点があります。

もしかすると、DJIは市場の寡占とブランド戦略において、最も成功した中国企業なのかも知れません。

シャオミ(小米-小米科技)

シャオミは2010年創業の、大手スマートフォンメーカーです。

当時は中国の携帯電話といえば、iPhone等のコピー品が多く出回っており、粗悪なものも多かったようです。

しかし、シャオミは創業当時から、ユーザーを惹きつけるデザイン戦略で製品を展開し、徐々にスマートフォン業界の巨人へとのし上がっていきました。

また、“小米之家”という直営店を展開したり、イベントの開催、ユーザーコミュニティの創出など、ユーザーの囲い込みに余念がなく、アップルのマーケティング手法を意識していると言われ、「中国のアップル」とも呼ばれていた時期もあります。

現在ではハイエンドのスマホとともに、スマート家電などホーム・オートメーション機器にも力を入れています。

さらに、2019年より日本に進出し、シャオミブランドのスマホは現在、KDDI(au)より入手することができます。

製品そのもののみならず、CI(企業戦略・企業文化)で成功した一例であると言えます

TikTok(字节跳动)

TikTokという動画アプリを使ったことのある人は多いと思います。特に10代から20代前半までの若い年齢層に浸透している世界的なアプリです。

しかし、TikTokが純粋な中国発のアプリであることを分かっている人はどのくらいいるのでしょうか?
(中国名は「抖音」dou3yin1)

奇しくも、そのことが知れ渡ったのが、米中貿易摩擦の措置として、トランプ大統領によってTikTokの米国事業の売却が命じられたことがきっかけでした。

それまでは、ほとんどのユーザーが、開発元の国籍などは特に意識することなく、あるいはアメリカ企業のアプリだと思って使っていたのではないでしょうか。

実は、純粋に中国発のアプリが、国や経済圏に関係なく世界的に利用されるようになった例は、TikTokが初めてと言って良いでしょう。

有名なチャット・アプリのWeChatにしても、メインは国内ユーザーで、あとは海外の華人や、中国との交流のあるユーザーによって使われているに過ぎません。

現在、TikTokの月間アクティブユーザー数は10億人に迫る勢いであると報じられています。

この数字は、2020年の世界総人口約78億人と比べて、どれだけ途方もない規模なのかがわかるでしょう

ここのところ、政治問題に巻き込まれ、陰りを見せつつありますが、膨大なユーザーによって支えられた巨大グローバル・プラットフォームでありつづけることは間違いありません

NIO (上海蔚来汽車)

NIO (上海蔚来汽車)は、上海に拠点を持つEV(電気自動車)の新興メーカーで、2014年に設立されました。

この自動車のブランドを知っている人は少ないと思います。

何しろ、中国国内のみで、1年に4万台ほどの自動車を販売しているに過ぎないメーカーです。

では、どこが「グローバル」なのでしょうか?

実は、NIOは米国株式市場のNASDAQに上場していて、2020年から非常に高い人気を集め、現在株価が高騰しています。

ちなみに、 NIOの株価は2020年頭で4USD前後、それに対し現在(2020年12月8日)では46USDまで上がっているので、1年で10倍以上に跳ね上がっていることになります。

そして、それに伴い時価総額も莫大で、現在ではなんと、大手自動車メーカーのBMWやGMの時価総額を超え、世界大6位までのし上がっています。

出典:https://companiesmarketcap.com/automakers/largest-automakers-by-market-cap/

ちなみに、GM(ゼネラル・モーターズ)の年間自動車販売台数は770万台(2019年)。これに対し新興のNIOは、2020年見込みで4万台程度と言われています。

このような圧倒的な差をものともせず、時価総額で伝統的な大手自動車メーカーを超えてしまったことに世界中の投資家が呆れ驚き、そして熱い注目を集めています。

株価だけではありません。

NIOは、電気自動車メーカーとしての実力もさることながら、クルマ以外の「モノ・コト」を提供するマーケティング戦略を徹底しています。この点ではシャオミと共通する部分があります。

製品そのものは高級車に位置するもので、安いものではありませんが、この車を所有するというライフスタイルを提示することによってユーザの囲い込みを行なっています。

そのために展開しているのが、NIO HOUSE(直営店) , NIO POWER(充電ステーション) , NIO SERVICE(サービス拠点)です。

この会社のWebサイトを見ると、自動車だけではなく、家庭用品や食品などのライフスタイル提案も展開されていることが分かります。

要するに、「NIOの車を中心として、余裕たっぷりのハイクラスな生き方を追求しましょう」というメッセージと受けて取れます。

こうした考え方は、これまでの中国のモノづくりには見られない態度であり、そう遠くない将来にNIOが海外へ展開した際も貫かれていくと思われます。

MINISO(名創優品)

MINISOは中国発の「日本風雑貨」チェーン店で、現在世界50カ国以上で1000店以上展開しています。

実は、MINISO(あるいは「メイソウ」)と聞くと顔をしかめたくなる日本人もいるかも知れません

というのは、まずロゴからしてユニクロのカタカナのロゴと極端に似ていて、しかも内容は日本の低価格雑貨店の特徴を色々混ぜ合わせたような作りになっているからです。名前の中にある「SO」も某チェーン店を連想させますね。

しかし、ロゴは置いておくとして(はっきり言うと、カタカナのロゴは何とかして欲しいと思っています)、

このチェーン店は、何か日本のものを「パクった」わけではなく、「日本にありそうな日本風雑貨店」のイメージを展開しているに過ぎません。

実際、日本には「アメリカン・ライフスタイル」「フランス風雑貨店」「北欧風デザイン」・・・などを展開している純日本企業はいくらでもあるわけですから、海外で「日本風雑貨店」を展開されてこれを批判するのはおかしな話だと思います。

日本にも数は少ないですが、中国風雑貨を扱った中国風雑貨店チェーンもあるわけですし・・・

もちろん、日本風の演出に雑な部分があり、ヘンテコ日本語が印刷されたPOPやPRバナーが時々ツイッターなどで話題になっていたようです(現在ではかなり改善されたようです)

でもこういうことは、日本でも日常茶飯事(ヘンテコ英語やフランス語)ですのでお互い様ではないでしょうか・・・

いずれにせよ、MINISOは世界的に認知される中国ブランドとして大きな成長を遂げたリテールチェーン。

近頃では商品開発にも力を入れており、日本でも再評価されているようです。

私は個人的にはミニソーよりも◯◯ソーに足を向けると思いますが・・・

 

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